動物園水族館雑誌文献

第48回水族館技術者研究会

発行年・号 2005-46-01
文献名 第48回水族館技術者研究会
所属
執筆者
ページ 21〜28
本文 第48回水族館技術者研究会

Ⅰ.開催日時:平成15年11月6日(木),7日(金)
Ⅱ.開催場所:マリンピア松島水族館・ホテル壮観
Ⅲ.参加者:秋篠宮総裁殿下,55園館87名,副会長1名,会友1名,研究会事務局2名,その他1名
Ⅳ.研究発表:口頭発表22題(うち話題提供2題),題日,発表者は下掲
Ⅴ.宿題調査研究報告:飼育下サメ類の現状把握について(アクアワールド茨城県大洗水族館)
Ⅵ.情報提供:1)JAZAネットワークの利用について(ネットワーク委員会・有システムサイエンス)
2)平成14-15年度教育普及事業推進委員会の活動-ワークショップとシンポジウム-(教育普及事業推進委員会)
Ⅶ.懇談事項:
1)次期宿題調査についてテーマ「ウミガメ類の飼育」(鴨川シーワールド)
2)研究会事務局からの連絡
3)次期開催地について
平成16年度伊豆三津シーパラダイス
平成17年度近畿ブロック
4)その他
Ⅷ,施設見学:マリンピア松島水族館

第48回水族館技術者研究会発表演題および要旨
○印は演者
〔口頭による発表〕
1.水槽内で観察されたスポッテッドラットフィッシュの繁殖生態:○笹沼伸一,荒井 寛1),児玉雅章,橋本浩史,木村隆司,多田 諭(東京都葛西臨海水族園,1)現所属 井の頭自然文化園)
東京都葛西臨海水族園では,北米の太平洋沿岸に分布するギンザメ科のスポッテッドラットフィッシュHydrolagus collieiを1989年から展示し,交尾行動から孵化までを観察している.全頭類の繁殖行動についてはほとんど記録がないと思われるため得られた知見を報告する.
親魚は,1994年4月29日にカナダから搬入した雌雄のペア(全長40~50cm)で,水温10℃,水量約10㎥(2.8×2.0×2.0m)の水槽で飼育した.産卵は,1996年1月14日から1999年11月5日の間に合計98回確認され,交尾行動および産卵行動はビデオ撮影および目視により観察した.
交尾行動が観察できた2例では,雄が前額交尾器を雌の胸鰭の後縁部に鉤着し,雌雄で互いに腹部を寄せ合って遊泳していた.ただし,雄の腹鰭前突起や交尾器の利用の様子は,観察できなかった.
産卵は周年にわたりおよそ10日前後の間隔で続いた.産卵は一回に2卵で,各卵はそれぞれ長さ約13cmの葉状で角質の卵殻に包まれる.雌は生殖孔から卵を垂下して遊泳し,その後,尾部や腹鰭を砂底に押し付け,小刻みに激しく震わせて砂を巻き上げ,少し後退しながら卵を底砂に数cmの深さに埋め込んだ.これまでに12例の孵化があり,孵化日数は,水槽から回収した卵の孵化例から,水温10℃で少なくとも6ヶ月以上かかることを確認した.

2.水槽内で観察されたタマカエルウオの繁殖行動:岡田勇治,○古市敦子,祖一 誠(鴨川シーワールド)
タマカエルウオ(Alticus saliens)の水槽内産卵を2002年12月1日に確認し,その後9ヶ月間にわたって観察したので,その繁殖行動について報告する.
水槽は,サンゴ礁のタイドプールを模してデザインされた閉鎖循環式(総面積41㎡,水量33.2㎥,水温26℃)で3~5分毎に水位が20cm上下する干満装置を併設し,魚類や無脊椎動物約80種1,300個体が飼育されている.本種14尾のうち7尾(雄4,雌3)について繁殖行動が認められた.産卵巣は4箇所で,いずれも上下する水面の高潮位に位置する擬岩の窪みに見られ常に同一の雄が占有した.繁殖行動は日中に行われ,総産卵回数34回のうち23回は同一ペアーによるもので,産卵間隔は6~19日間(平均11.8日間)であった.
雄は産卵巣に近づいてきた雌に誇示(ディスプレイ)をして巣穴に誘い込む.雌が単穴に入ると同時に,雄は巣穴を出て入口で誇示を続けたり,巣穴の入口を体でふさぐような行動を見せる.雌が巣穴から出ると、雄は再び巣穴に入るが,雌が巣穴付近に留まっている場合は再び誇示を行って雌を巣穴に誘い込む、この間に産卵,放精が行われているものと思われる.これらの行動を繰り返した後、雌は巣穴から離れていき,雄のみが孵化まで卵の保護を行う、卵は楕円形の付着卵(平均長径1.18mm,短径0.98mm)で、一回の産卵数は61~356粒であった.孵化日数は8~11日間で,孵化仔魚の全長は平均4.1mmであった.

3.クマガイウオの繁殖行動:○神田武志,岩田雅光(ふくしま海洋科学館)ふくしま海洋科学館では,2000年12月に雌のみで飼育していたクマガイウオHypsagonus jordaniが産卵し,仔稚魚の育成に成功した.このことから,本種が体内受精することを知り得たが,これまで交尾に関しての観察報告はなかった.今回,水槽内で本種の求愛および交尾行動を観察したので,その結果を報告する.
雌雄を隔離するために仕切りを入れた水量0.2㎥の水槽(平均水温12.7℃)に,本種の成魚雌雄を各3尾収容した.観察は6月1日から8月31日までの間に,延べ33日間実施した.記録は9時30分から17時30まで雄と雌を同居させ,その間,ビデオ撮影し,夜間および未観察日は交尾を避けるため,水槽内を仕切り雌雄を隔離した.求愛する雄は,雌を追尾したり,胸鰭を小刻みに震わせながら,雌の体側に沿って移動する行動を繰り返し行った.雄同士の干渉では,雌に求愛しようとする雄に対して,他の雄が雌との間に割り込んで妨害する行動はみられたが,お互い傷つけ合うような激しい闘争はなかった,交尾は求愛後,雄が横臥した状態で雌の下に入り込み,交尾器を雌の総排泄腔に挿入して行われた.交尾中,雄は頭部と尾部を反り返らせてU字型の姿勢をとり,この状態は約10分間続いた.交尾は観察期間中2回観察され,6月20日に交尾した雌を隔離したところ,約2ヶ月後の8月24日に産卵し,その卵は正常に発生を開始した.

4.飼育下におけるインコハゼの繁殖と仔魚期の形態変化:○倉石 信,宮原聖一,土橋亜季子(ふくしま海洋科学館)
ふくしま海洋科学館では,2001年よりインコハゼExyrias puntangが展示水槽内で産卵を開始し,同年に仔稚魚の育成に成功した.今回は本種の繁殖に関するいくつかの知見と仔魚期の形態変化について報告する.
親魚は2000年に入手した沖縄県産の13個体(搬入時全長約10cm)で,マングローブ域を模した自然光が間接的に差し込む展示水槽(水量40m,設定水温25℃,比重1.013)にて飼育した.産卵は2001年2~4月に3回2002年6~8月に2回,2003年4~6月に3回確認した.産卵を確認した時の親魚は,雄が全長約14~16cm,雌が全長約12cmであった.産卵は,日没直前に始まり約5時間後に終了し,卵は擬岩上の平滑面や底砂上に産み付けられた.1回の産卵数は約1000粒であった.産卵後雄魚は,卵上にとどまり胸鰭や臀鰭を使い卵に水を送るファニング行動が見られた.卵は平均長径1.95mm,平均短径0.59mmの沈性付着卵であった.卵は,平均水温24.7℃で受精後約120時間で孵化した,仔魚は,ウォーターバス方式により設定水温25℃に調節した100ℓポリカーボネイトタンクに収容し,シオミズツボワムシを初期餌料として育成した,孵化仔魚は平均全長2.74mm(筋節数8+16=24)で,既に口と肛門は開口し,わずかに卵黄が残っていた.脊索末端部の上屈は日齢14,全長3.50mmで始まり,日齢32,全長4.78mmで着底した.その後稚魚は,日齢121には全長14.1mmに成長した.

5.インドシナレオパードパッファーの水槽内繁殖について:○秋田 朋,明石理絵子,土井啓行(下関市立しものせき水族館」
インドシナレオパードパッファーTetraodon palembangensisは,東南アジアの河川域に分布し,全長20cmに成長するフグ科魚類であり,一般に観賞魚として飼われているが,繁殖の報告例をみない.下関市立しものせき水族館では,2002年2月より本種3個体の飼育を開始し,2003年6月から8月までの期間に3回の産卵を確認した.このうち2回について孵化,稚魚の育成を行うことができたので,その経過について報告する.
親魚は全長約15cmで,水量95ℓの展示水槽で飼育し,水温は25℃~26℃で管理した,水槽底面には底砂をしき,シェルターとして麦飯石製の円筒を設置した.産卵は,円筒内底部ならびに底砂で行われた.受精卵は乳白色半透明の粘着沈性卵であり,卵径は平均2.25mmであった,孵化は平均水温25.7℃にて,産卵後9~11日後に確認した.
孵化仔魚の全長は,4.50~4.75mmであり,水量21ℓの止水式水槽に収容し,弱い通気を行った.孵化2日後よりアルテミア孵化幼生の摂餌を確認した.孵化5日後の仔魚の全長は,平均5.33mmとなった,孵化11日後より稚魚同士間での咬みつき行動を確認した.また,孵化12日後よりイトミミズを併用給餌し摂餌を確認した.2003年7月9日に孵化した124個体は,64日後の9月12日現在20個体が生存し,全長は平均11.90mmに成長した.

6.吸血性カンディルの飼育事例について:田端友博○青山 茂,土井敏男(神戸市立須磨海浜水族園)
南米アマゾン川等に生息するナマズの仲間,カンディル類には,吸血食性の種が知られている.水族館における吸血性カンディルの飼育事例は少なく,長期飼育も難しいとされているが,米国クリーブランド水族館において約6ヶ月間の飼育実績がある.本年3月,神戸市立須磨水族園では吸血性カンディルの一種を入手し,飼育展示する機会を得た.その際,飼育に関する若干の知見が得られたので報告する.
入手した吸血性カンディルの一種は,全長65mから90mmの細長い円筒形で,水温26℃に設定した90cm×45cm×45cmの市販ガラス水槽にて複数の飼育が可能であった.餌として,キビナゴ,冷凍赤虫,活イトミミズ,鮮度の良いアジ,イワシ丸1尾,活金魚(全長3~4cm)等を試したが何れにも摂食行動は示さなかった.しかしながら,比較的大型(全長15~20cm)の生きた金魚を投入した際には激しく反応し,しばらくその体の周囲をなぞるように徘徊した後,鰓蓋の隙間に頭部を潜り込ませて吸血を行った.1回の吸血に要した時間は,40秒~670秒,吸血量は0.9㎖~2.2㎖で魚体重に対する吸血量は0.75倍~1.73倍もの量となった.また,飼育水槽内でカンディルと金魚を一定期間同居させた場合,次回の自発的吸血までに要した日数は4~8日であった.吸血性カンディルの継続的飼育に関しては,常にやや大型の生きた餌魚を用意し,週に1度程度吸血させれば可能であると考えられた.

7.ハダカカメガイの卵内発生及び,初期幼生の変化について:○志村和生,山内靖宣(登別マリンパークニクス)
ハダカカメガイが水槽内で産卵を行ったので卵と孵化幼生の経過を報告するとともに,本種の水槽内繁殖の可能性について考察する.
親個体(TL25mm)は,2003年5月2日に北海道斜里町宇登呂にて捕獲され,輸送中に産卵し,翌日に登別マリンパークニクスへ持ち込まれた.その後,密閉した500㎖容器にて毎日100㎖の換水を行い,飼育水槽(水冷冷却方式二重構造)の外側水槽に浮かべて,卵とともに飼育した.照明は上部蛍光灯20wが1本,水温は捕獲地の条件に合わせ4℃以下に設定した.
産卵は以後2回確認された,卵塊はゼリー状の物質で包まれた凝集浮性卵,卵数はおよそ800~1000個であった.産卵当日の卵の大きさは,長径約0.25mm,短径約0.15mmで,鶏卵型の乳白色であった,孵化は産卵より9日目から始まり2日間程で約8割の孵化を認め,ベリジャー幼生の全長は0.2mmの釣鐘型で底辺部分はくびれた状態で面盤を有した.孵化後300㎖容器にて微弱な通気(80㎖/min)のみを行い換水は行わなかった.幼生の餌料には植物プランクトン培養液を飼育水に1㎖添加し摂餌を促した.水温を2.0~3.8℃で飼育した場合,孵化日数は9~11日間で,平均積算温度25.8℃であった.幼生は孵化後12日目ですべて繁死した.育成には飼育水の悪化防止と換水による幼生に負担を掛けない為に,新鮮な海水を送れる流水換水が可能な専用水槽が適していると思われる.

8.アメリカカブトガニの人工授精とふ化個体の飼育:○帝釈 元,高村直人,森滝丈也,山本 清,半田俊彦,堀田拓史(鳥羽水族館)
カブトガニ類の飼育下での繁殖を目的として,アメリカカブトガニの人工授精を試み,得られたふ化個体の飼育も行った.
2002年9月,10月,2003年2月,4月(合計4回)に,成熟した個体を海水中から取り上げ,腹面を上にした状態で生殖孔付近を指で押して卵および精液を排出させ,卵の場合は指で,精液の場合はスポイトで回収し,両者を少量の海水中にて混合し(授精処理),人工授精させた.授精処理した卵(数は順に49,58,99,101個)は,水温17~28℃の海水を満たした約1ℓのプラスチック容器に収容し,1~3日に1回換水した.ふ化個体は,1~4ℓのプラスチック容器に令ごとに収容し,水温20~30℃で止水飼育(1~3日に1回換水,ろ材とエアレーションも使用)した.1令は無給餌,2令にはアルテミアのノープリウス幼生,3令以降にはアルテミアのノープリウス幼生と観賞魚用配合飼料の両方を与えた.
人工授精は4回とも成功し,ふ化個体は34,10,28,26(合計99)個体で,ふ化率は69.4,17.2,29.3,25.7(平均35.4)%であり,ふ化日数は24~54日であった.化後の生残率(1令個体数に対する各令の個体数の割「合」は2令58.8,30.0,100.0,96.2(平均71.2)%,3令55.9,30.0,92.9,96.2(同68.7)%,4令50.0,20.0,85.7,76.9(同58.2)%であった.2003年9月11日現在.4~7令の合計31個体が生存している.

9.キタミズクラゲの繁殖について:○奥泉和也,村上龍男(鶴岡市立加茂水族館)
キタミズクラゲ(Aurelia limbata)は,傘の縁辺が茶色で複雑な水管系を持つことが特徴とされる亜寒帯性のミズクラゲ属の一種である.鶴岡市立加茂水族館では,本種の周年展示の可能性を模索するため現在飼育中であるが,これまでの観察から得られた知見を報告する.
2001年7月31日に登別マリンパークニクスより寄贈された室蘭産の成熟した水母からプラヌラを採取し,ポリプの無性生殖,ストラビラの形成,クラゲの成長を観察した.
プラヌラ(長さ約200μm,幅約143μm)をシャーレに取り,水温約15℃で飼育と観察を開始した.5日後,すでにポリプに変態していた.16日後,触手16本を持つポリプに成長した.その後,着生したポリプを30ビーカーに入れ,1日1回アルテミアを与え週1回の全量換水を行った.64日後,すでにポリプからポリプの出芽など無性生殖が始まっていた.観察開始より約10ヶ月後,ポリプの群体を試験的に水温5℃のウォーターバスに入れ,さらに約6ヶ月後,ポリプの群体は,ポリディスクのストラビラを形成した.遊離後,エフィラ(直径3.5~4.5mm)を水温10℃のウォーターバスに入れた.成体と同様な形態に成長した幼体は,水温約15℃,容量約1100展示水槽に入れ,1日2回冷凍コペポーダを与え飼育した.遊離後,約6ヶ月で傘経約10cmの成熟した水母に成長しプラヌラを放出した.

10.有明海産ビゼンクラゲ属の一種の輸送と展示:○村井貴史,小野真由美,村上寛之(大阪・海遊館)
有明海では2種の大型の根口水母類が食用として漁獲対象になっている.このうち,ビゼンクラゲ属の一種Rhopilema sp.(地方名「赤くらげ」)について,採集と輸送を試み,展示に成功したので概要を報告する.採集および輸送は2002年と2003年の6月から9月にかけて4回行った.採集は福岡県柳川市沖で地元漁師のクラゲ刺網にかかったものを水面際ですくい上げた,表層水温25.6-26.9℃,比重1.018-1.025であった.容量1000-1500ℓの水槽に傘径20-45cmの個体を各水槽につき25個体を収容し,柳川市から大阪まで陸路およびフェリーにより輸送を行った.輸送中は,垂直に浮かせた筒内でエアリフト式に酸素曝気を行った.酸素補給を行わなかった場合には,3-9時間で酸欠によるものと思われる拍動停止がみられた.クラゲは収容直後より多量の粘液を分泌したので,頻繁な粘液除去作業,およびフェリー内で消火栓の海水を利用して1-4回の換水を行った.輸送所要時間は最大で約23時間,このうち無換水状態の最長時間は約12時間であった.海遊館搬入後,直径150cm,高さ160cmの円柱展示水槽および,容量600-4500ℓの予備槽に収容し,水温20℃または25℃で飼育展示を行った,基本的に無給餌としたが,一部の個体ではアルテミアを口腕に吹きつけることにより給餌を行った,時間の経過とともに傘の変形や口腕付属器の脱落がみられた.同一個体の最長展示期間は29日間,最長飼育期間は52日であった.

11.オーストラリアから搬入したシロワニの繁殖期と摂餌量の変化について:森  徹,○広瀬朋子(海の中道海洋生態科学館)
ネズミザメ目ミズワニ科に属するシロワニ(Odontaspis taurus)は,1995年に海の中道海洋生態科学館が国内で初めて展示し,それ以降,8園館で飼育されている.しかしこれまでに国内での繁殖行動の報告はない.
当館では1995年と1996年に,オーストラリアのシドニーより雌雄3個体ずつを,パノラマ大水槽(水量1400㎥)に搬入し継続展示している.照明は上部の水銀灯と,昼間はテフロン製の幕屋根を通しての間接的な太陽光により照度を確保し,また飼育水温は年間20.4~23.1℃(平均21.7℃)に調整されている.餌はマアジ.イサキ,ブリを使用し,毎日1回潜水による直接給餌を行っている.
この結果,繁殖追尾行動が1997年10月に初めて見られ,その後,2001年からは毎年8~11月に確認されている.この時期はオーストラリアでの繁殖期に当たり,日長時間が北半球側であり水温もほぼ一定で飼育しているにも関わらず,その影響を受けずに繁殖年周期が継続している.繁殖行動は,最も大きな雌1個体(全長2.8m)に対し,3個体の雄が追尾し噛み付く行動であるが,交尾までは確認できていない,また本雌個体の摂餌量は,繁殖行動の終息する時期より著しく低下する傾向がみられ,2002年には52日間摂餌しなかった.このことから,雌の摂餌量の変化は繁殖行動に起因していると思われる.今後の飼育調査で,卵の排出周期の解明と繁殖までの条件を明らかにしていきたい.

12.アオメエソ科2種とミズウオの雌雄同体現象:小林弘治(東海大学海洋科学博物館)
真骨魚類は雌雄異体を原則とするが,多様な様式の雌雄同体現象が多種に存在する.深海性魚類のアオメエソ科やミズウオは,同一個体で雌雄の性機能を同時的に果たす同時成熟型雌雄同体現象が,メキシコ湾産等で報告されている.しかし,日本近海に生息する両科魚類の雌雄性や生殖現象に関する知見は乏しい,そこで本研究では,駿河湾と遠州灘産の両科深海性魚類の性現象について調査した.
供試魚は,底引網で採集したトモメヒカリ1尾(227mm TL;3月)とアオメエソ161尾(87~190mm TL;9~6月),釣獲や漂着物収集で得たミズウオ18尾(850~1285mmTL;12~5月)で,それら個体の生殖腺を常法によるパラフィン6μmの横断切片とし,HE染色等を施して組織学的に検討した.
対象3種の生殖腺は,全個体が背縁に精巣部,腹縁に卵巣部を有し,両組織は結合組織により隔てられる分離型の両性生殖腺の形態を呈していた.生殖腺の成熟は,アオメエソでは精巣部で精子形成活動を認める例が多いが,卵巣部の卵母細胞には卵黄形成を認める例はなく未成熟であった.トモメヒカリはアオメエソの成熟状態と類似していた.ミズウオは全て両組織が未成熟であった.
従って,上記3種は雌雄同体であることは確認されたが,両海域の3種では両性生殖腺の精巣部と卵巣部における配偶子形成の状態から同時成熟型であるか疑問が持たれた.今後は,さらに外洋に生息する個体等を検討する必要がある.

13.ムサシトミヨの繁殖条件:荒井寛(井の頭自然文化園)
ムサシトミヨは,現在では埼玉県の1箇所で生息が確認されているに過ぎない絶滅危惧種(IA類:環境省)で,水槽内での繁殖技術が蓄積され,日本動物園水族館協会において「繁殖マニュアル」としてまとめられている.しかし,将来的には,野外での生息地復元を考えるべきで,その際に必要となる自然繁殖のための条件を検討した.
8つの小型水槽;60cm水槽(65ℓ)×1,75cm水槽(128ℓ)×2,90cm水槽(182ℓ)×5で,マツモとオオカナダモを用い,収容する水草を合計の長さで17~135m/㎡の範囲で変化させて稚魚の成育状況を観察した.
すべての水槽で巣作りが観察され,60cmと90cm水槽では産卵を確認した.稚魚を確認できたのは90cm水槽だけだったが,4つの水槽で合計少なくとも8群,全長15~30mm,計43個体の稚魚の成育が確認できた,稚魚用のえさを特に与えなくとも稚魚は成長した.
稚魚育成に成功した水槽で,共通した最も重要な条件と考えられたのは,マツモの密在で,浮いたマツモの厚さは5~10cmになり,マツモの合計の長さは30~100m/㎡だった.オオカナダモの場合と水草が少ない場合は,稚魚は確認できなかった.密在するマツモは,稚魚の隠れ場所として機能し,同時に餌となる珪藻などを提供していると考えた.

14.デンキウナギの電位分布について:○西條正義,浅野祐市,遠藤善晴(マリンピア松島水族館)
マリンピア松島水族館では1993年から「電気ウナギの放電表示システム」を使って,デンキウナギ(Electrophorus electricus)を展示している(第39回水族館技術者研究会で発表済み).この装置を使って,体の後ろ半分にある探査用発電器官からの放電について,電位が時間と共にどのように変化するかを調べた.この装置は,水槽の底に,等間隔で16×32=512個の電極が,又水槽上部には下向きにビデオカメラが設置され,これらはコンピューターに接続されている.コンピューターのアナログ/デジタル(A/D)変換部は512chの同時A/D変換(8bit分解能)を40μsecの間隔で連続して行い記憶できる.解析は次のようにして行った.測定電圧レンジを±13Vとし,デンキウナギの体が常に底に触れるように水深を浅くした.40μsec毎の各部(ch)の電位を数十段階に色分けしてデンキウナギの映像と共に表示した.デンキウナギの体が「まっすぐなとき」,「円のように曲がったとき」,「体の側面を下にしたとき」など様々な形での放電を計測し解析した.その結果,デンキウナギの探査用発電器官について次のことがわかった.発電器官の電極位置は時間の経過に伴って移動せず,レーダーで云う「ビームを振る」現象は見られなかった.尻尾の先のマイナス極の面積は小さい,体の中央部にあるプラス極の面積は大きい,両極の間の外皮は絶縁されている.今後は体の前半分にある主(攻撃用)発電器官や他の発電魚も調査し報告したい.

15.千歳川におけるヤツメウナギ類の生息調査について:○遊佐清明,今村初義(千歳サケのふるさと館)
石狩川水系千歳川にはカワヤツメLethenteron japonicum,スナヤツメL.reissneri,シベリアヤツメL.kessleriの3種のヤツメウナギ類が生息している.千歳川全域でヤツメウナギ類に関する資料が乏しいことからこれら3種の生息状況を2002年から調査している.これまでの調査で得られた知見について報告する.
千歳川本流22地点および支流28地点を定点ポイントとし,これまで16回の現地調査を実施した.採集には電撃捕魚器(スミスルート社製:Mod.12B)を使用し,調査員2名が胴付ウェルダーで入れる河岸約20m範囲内で実施した.採集個体はすべて筋節数および外部計測をし,種の同定を試みた.
採集総数は402個体,千歳川本流161個体,各支流241個体であった.内訳はカワヤツメ240個体,スナヤツメ142個体,シベリアヤツメ3個体,種不明17個体であった.採集状況からヤツメウナギ類の生息環境は河川のよどみの砂泥部に集中した.千歳川本流および各支流での生息状況は,総じて下流域ではカワヤツメが,上流域ではスナヤツメが優占する傾向を示した,各河川共通の特徴として,堰堤の上流と下流では明らかに生息数もしくは分布種が異なった.このことから,堰堤の存在が,特にカワヤツメの産卵遡上の障害になっていることが示唆された.また,アンモシーテス幼生は自力での移動に乏しく,河川環境の変化がなければ,変態まで同一地点に生息する傾向もみられた.

16.田んぼビオトープによるタガメ定着(復活)の成功について:市川憲平(姫路市立水族館)
姫路市内には,少なくとも1970年代にはタガメが生息していたが,最近はほとんどその姿を見ることはない.姫路市北部の放棄田を借用し,1999年から田んぼビオトープづくりを進め,タガメの復活を目指した.
タガメが生活できる環境は,ドジョウやカエルなどの小動物の多い環境である.カエルが住みやすい環境は,適度に雑草が茂り,小昆虫などの多い草地(壁など)に隣接する浅い水辺である.また,タガメは雑木林などで越冬するため,近くに林がなければならない,つまり,タガメが定着するためには,半世紀前にはふつうに見られた豊かな里の自然が再生されなければならない.
1999年に放棄田に水を張り,25匹のタガメとドジョウ,メダカなどを放した.池内の草抜きや泥上げ,畦の草刈などの維持管理を続けることによって,ビオトープ内のドジョウやメダカは毎年繁殖し,世代を重ねている.毎年この水辺に6種類のカエルや,タイコウチなどの水生昆虫類がやってきて繁殖するようになった.ヘイケボタルも群舞するようになった.タガメについても,林などで越冬した後,ビオトープに戻ってきた繁殖成虫の一部が再び繁殖し,世代を継いでいる.2003年も,戻ってきた成虫が繁殖し,6世代目のタガメが多数羽化した.この谷間に半世紀前の里の自然が再生し,タガメが復活した.

17.マイクロサテライトマーカーDNAを用いたタイマイの父親鑑定の試みについて:○坂岡 賢,吉井 誠,中村仁,加納義彦,柿添裕香,呉羽和男,福所邦彦,内田 至(名古屋港水族館)
近年の分子生物学的研究の進展を背景に,名古屋港水族館では1998年に飼育下で孵化したタイマイ(Eretmochelys imbricata)の父親鑑定を試みた.今回調査対象の母親については,信頼できる交尾の目撃情報は得られていない,従って分析対象個体は,孵化したタイマイ1個体,母親個体,水槽内で飼育されている全雄4個体,以上6個体とした.マーカーは,過去に複数種のウミガメより単離されたCAリピート配列を挟む計7ヶ所のマイクロサテライト領域(約110~360塩基対)を使用した.7ヶ所の各マイクロサテライトマーカーについて,6個体が保有する対立遺伝子を解析した結果,1マーカーについては単型であった為,父親の鑑定は不可能である事が確認された.また5マーカーについては多型性が確認されたが,孵化個体が保有する父親由来の対立遺伝子と相同な対立遺伝子を保有する父親候補個体が複数存在した為,各マーカー単独での父親の鑑定は不可能であった.しかしながら複数のマーカーの組合せにおいて,最終的に父親個体を決定できる事が確認された.さらに1マーカーについては,孵化個体が保有する父親由来の対立遺伝子と相同な対立遺伝子を保有する父親候補個体が1個体に絞られた為,父親個体を直接決定する事ができた.以上の結果よりマイクロサテライトマーカーDNAは,親子鑑定を行う上で非常に有効であり,複数のマーカーを解析する事によって精度の高い鑑定が可能である事が明らかとなった.

18.6種の水質浄化材によるろ過実験:○山口勝秀,田久和剛史(島根県立宍道湖自然館)
【目的】今日,市場には小型水槽用のさまざまな水質浄化材が流通している.魚類飼育に適したろ材を探るため,入手できた6種の水質浄化材を比較検討した.
【方法】市販の60cm水槽(容積57ℓ)の水槽に上部フィルター(面積456c㎡)をセットし,①ポーラストン,②麦飯石,③ミロクストーン,④マイクロポーラスマテリアル(MPM),⑤濾過バクテリア繁殖用濾材⑥グラスウールを各1,000g(⑥は計量カップ10分)敷き,水質を毎日1回,2ヵ月間測定した.試験魚としてホンモロコ(平均魚体重2.2g)を20尾使用し,給餌は1日2回(0.5g×2)行った.測定項目は,水温,pH,NH3-N,NO2-N,NO3-N,目視による透明度とコケの着生具合とした.循環率は,10ℓ/minとした.
【結果】開始時(7/1)の水質は以下の通り,水温:24.7–25C,pH:8.14–9.30,NH3-N:0~0.04mg/ℓ~,NO2--N:0~0.008mg/ℓ,NO3--N:0~1.4mg/ℓ.実験開始後,pHは各水槽ともに徐々に低下し,9/6でpH5前後になったが,ののみが8.41を示した.7/4にはのを除いた5水槽のNH-Nが0.6mg/e測定の限界値を示した.その後,ののみが7/17から減少し始め,9月6日に0.09mg/ℓとなった.NO2--Nは,7/17に全ての水槽で0.375mg/ℓ(測定限界値)を示し,8/17に低下しはじめた.NO3--Nは7/20に全水槽で35mg/ℓ(測定限界値)を示し,その後も続いた.よって,MPMはNH3-Nの分解に何らかの働きがあると考えられた.

19.密閉式濾過槽の還元化による無脊椎動物の飼育について:○大塚基圭(サンシャイン国際水族館)
近年,開放式濾過槽の循環水を,濾材表面のみに流し,窒素化合物を還元処理させ硝酸態窒素の蓄積を抑制することが,造礁サンゴ等の飼育に効果的であることが知られてきた.しかしながら密閉式の濾過槽においては,上記の様な循環方式を用いた還元処理についての知見が得られていなかった.そこで,密閉式の濾過槽の還元化を試みたので報告する.
実験はムラサキハナヅタ,イソギンチャクモドキ,ウミキノコなどの無脊椎動物を主に飼育する100×60×100cm水槽(直径80cm,奥行き30cmの多角形の凸状の形状を持つ,総水量約1000ℓ)の密閉式濾過槽(直径50cm,高さ110cm)で行った.同濾過槽の上部エアー抜き配管を濾過槽出水配管に接続し,両管のバルブを徐々に開閉することで,濾材表面を流す方式に変更し,還元が行われるかどうか実験した.2002年10月7日よりバルブの操作を開始し,10月21日に完全に流れを切り換えた.硝酸態窒素,亜硝酸態窒素についてHAC社製のDR2000を用いておよそ週に一度測定した.循環率は1200ℓ/hrであった.
その結果,20003年6月1日から2003年の9月7日の3ヶ月に渡って換水を行なわない状態で硝酸態窒素は1.2から2.9mg/ℓを維持した.この間の水温は24℃から26℃,pHは7.9から8.5を推移した.ムラサキハナヅタについては,ポリプに成長増殖が見られ,イソギンチャクモドキについては,増殖が認められた.

20.水族館内で繁殖するセイタカイソギンチャク類の種名について:○内田紘臣(串本海中公園センター)
セイタカイソギンチャク類は水族館水槽内で増殖する代表的なグループである.
セイタカイソギンチャク科には現在5属が知られ,水族館などの人工水槽内で増殖する現象はAiptasia属とAiptasiogeton属の種で知られている.
セイタカイソギンチャク科の分類はかなり混乱しているが,特に最大の種数を含むAiptasia属の種の判定に関する混乱が著しい.しかも最近発行されたサンゴ礁海域における無脊椎動物のいくつかのガイドブックにおいては,本類に対して安易な同定が行われているように見受けられる.
演者はこれまでわが国各地の水族館で増殖した本類を調べると共に,インド洋のモーリシアスと,太平洋のパラオで水族館あるいは水産増殖用陸上水槽中で増殖した本類を調べ,外見の酷似にもかかわらず,Aiptasia属に属する個体群の間の稔性隔膜の数,上下における隔膜数の同異,体壁の基棘刺胞の有無などの形質の差異を発見すると共に,種を決定する重要な形質として従来から用いられてきた刺胞のサイズについての差異の甚だ小さいことを認めた.
このことから,わが国の多くの園館の水槽内で繁殖しているAiptasia属の種は種レベルでの正確な同定は現在の時点では不可能で,従って現時点では各園館はセイタカイソギンチャク属の一種(Aiptasia sp.)として登録及び表示を行うことが適当との結論に達した.

〔話題提供〕
21.琵琶湖・淀川水系の3つの水族展示施設が連携開催した企画展「びわ湖・淀川・大阪湾水の旅」について:北藤真人1),横山達也2),○松田征也3)(1)大阪・海遊館,2)水道記念館,3)滋賀県立琵琶湖博物館)
平成15年3月16日から23日にかけて,世界の水問題を話し合う「第3回世界水フォーラム」が大阪・京都・滋賀で開催された.これを記念して,琵琶湖淀川水系に位置する大阪・海遊館,水道記念館,琵琶湖博物館は,水生生物をとおして水の大切さを紹介することを目的に「びわ湖・淀川・大阪湾水の旅」を共通テーマとする企画展を,3月8日~4月6日に開催した.内容は,地域の水生生物を紹介するもので,海遊館は「守ろう!みんなの大阪湾」,水道記念館は「淀川の水環境と希少淡水魚」,琵琶湖博物館は「びわ湖で少なくなった魚と貝」のサブテーマを設けた.この他,3月11日には総合的な学習の実施時に関係があった,大阪市立島屋小学校の6年生84名と草津市立常盤小学校の5年生62名が参加した「子ども水フォーラム」を海遊館で開催した.ここでは,淀川周辺の環境や琵琶湖の外来生物などの調査成果の発表と意見交換を行った.また,海遊館の見学,大阪市広報船「水都」に乗船してのプランクトンや海底の泥採集を併せて行った.後日,子ども水フォーラム参加児童にアンケートを実施したところ,印象に残った内容として,船での調査47%,海遊館の見学25%,発表が23%であった.今後調べてみたいものがあるか尋ねたところ「ある」が82%で,このうちプランクトン調査が36%,他校の発表内容についてが24%であった.なお,子ども水フォーラムでの体験を家族に話したかの問いには80%が話したと答えた.

22.延縄漁法による外洋性サメ類の自家採集の紹介:沢木清人,松川正史,浅野祐市,金井 孔,○宇井賢二郎,川村 隆(マリンピア松島水族館)
マリンピア松島水族館では2002年5月から6月にかけて定置網漁や突きん棒漁により捕獲されたネズミザメの収集を試みたが,状態の良い個体の確保が難しかった.そこで2003年6月からは遊漁船をチャーターし,延縄漁法による外洋性サメ類の自家採集を行ったので,その実施内容を紹介する.
使用した延縄は,500~850mの幹縄に100m間隔で浮縄長2mの浮子を付け,釣針を付けた6m,12m,30mの枝縄を17~32本取り付ける仕様にした.期間中の操業海域は,北緯37度43分~38度06分、東経141度20分~142度41分の範囲になり,出航回数は6~9月の間で計8回である.延縄を流す時間は約1時間とし,幹縄の一端は船に固定する場合もあった.1日当りの操業回数は1~5回で,期間の合計では27回となった.餌には冷凍のサバ,サンマ,イカ及び活サバ等を用いた.また豚血の散布や,網袋に詰めた魚類の切りくずを幹縄及び船体後部に吊るすことによって集魚効果を図った.搬入数(体長範囲)/捕獲数は,ヨシキリザメ6尾(123~150cm)/8尾,アオザメ2尾(116~133cm)/8尾であった.海面からの取り上げには,排水穴をあけたアルミ枠ビニール担架を用いた.輸送は1mの活魚タンクに酸素給気および新鮮海水の掛け流しを行い,所要時間は海上で約2時間20分,陸上で約20分であった.搬入個体のうち,最長飼育日数は7月17日に捕獲したヨシキリザメの56日であった.

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